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事故直前の電話…がん闘病、亡き息子の笑顔が支え JR福知山線脱線5年(産経新聞)

 写真の中の息子が、見守ってくれた。JR福知山線脱線事故で長男の満さん=当時(37)=を亡くした斎藤百合子さん=兵庫県伊丹市=は昨年末に大腸がんの手術を受けた。不安な入院生活で支えになったのは病室のベッドのそばに置いた満さんの写真だった。「天国の満が応援してくれたから、手術は成功したのでしょう」。亡き息子への思いが百合子さんの闘病生活を支えている。

 「今、JRの伊丹駅や。帰りに寄るね」。これが、最後に聞いた満さんの言葉だった。平成17年4月25日朝、満さんは勤務先の研修のため大阪に向かう途中で事故に遭った。百合子さんが夫の堅一さんと暮らす実家に立ち寄ることはなかった。

 優しく、親思いの息子だった。憔悴(しょうすい)しきった百合子さんは事故から3年が過ぎるころ、左耳がほとんど聞こえなくなった。治療を続けていた昨年末、たまたま受けた検査で大腸がんが見つかった。

 初期とはいえ、それまで大きな病気をしたことがなかっただけにショックは大きかった。「まさかがんだなんて。これからどうなるのか怖くて仕方がなかった」。すぐに入院することになり、微笑む満さんの写真をかばんに入れ病院に。夜、病室の明かりが消えると不安に襲われた。

 そんなときは枕元の満さんの写真に語りかけた。「満、まだ起きてるの」。孤独なはずの病室が、ひとりではないように思えた。

 手術室に向かう直前にも「じゃあ、行ってくるね」と話しかけ、心を落ち着かせた。手術は予定した時間をオーバーしたものの、成功。満さんが脱線事故の犠牲になったことを知っていた執刀医は「きっと、満さんが力になってくれたんでしょうね」。涙がこぼれそうになった。息子の笑顔が自分を後押ししてくれていたことを感じた。

 術後、がんはリンパ節に転移していることが分かった。百合子さんは自宅で1日3回、抗がん剤を飲み続けている。この先いつまで投薬が続くのかは分からない。でも、あらためて思う。「満は、いつでも私たちのそばにいてくれる」

 あの写真はいま、自宅の居間にある。5年前と変わらぬ笑顔で、夫婦を見守り続けている。

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